訪問鍼灸の意義 その① | 2020/11/30

鍼灸のチカラでセカイを幸せに

2015年、国連においてこれから世界中の国と人々が進むべき方向性が「持続可能な開発目標(SDGs)」として示された。中でも目標3の「すべての人に健康と福祉を」への貢献は、不健康による教育や就業の機会損失や貧困を防ぐことにも繋がり、他のSDGs目標達成の基礎と成り得る。SDGsで掲げられた目標と鍼灸の果たすべき役割には共通項が多数あり、私たちは『鍼灸のチカラでセカイを幸せに』の実現を目指している。

人口減少社会の到来

日本はこれから人口減少と高齢化が本格的に進み、労働力の低下、消費の低迷、経済の縮小、所得の減少、税収の減少、要介護者の増加、社会保障関連費の増加、社会保障制度の崩壊、都市部への人口集中と地方の衰退などの問題が懸念されている。

日本人の平均寿命は、2018年に女性が87.32歳、男性が81.25歳と過去最高を更新した上、人口に占める高齢者の割合も26.6%と過去最高となった。要介護者も増えて、2018年には658万人に達し、高齢者だけで総医療費約43兆円のうちの半分近くと約10兆円の介護費を費やしており、今後も社会保障関連費は毎年5,000億円前後増え続けると推計されている。

一方で労働人口の減少は医療・介護業界も例外でなく、介護難民の発生も危惧されている。そもそも要介護状態にならないようにしなければならないが、最晩年の10年間は要介護状態で過ごすという報告がある。国民生活基礎調査では要介護・要支援の原因として、認知症、脳血管疾患、高齢による衰弱、骨折・転倒、関節疾患などが挙げられている。これらのうち、38%は運動器疾患が基盤に存在するという報告がある。実際に高齢者の2人に1人は有訴者であって日常生活に支障をきたしているという報告もある。運動器疾患は筋力低下を惹起させ、生活習慣病の引き金とも成り得ることから、その治療・予防は極めて価値が高い。

また、近年の高齢者ドライバーによる自動車事故が問題視されており、運転免許の自主返納が求められる時代となったことで、特に地方では高齢者が今までどおりの生活を維持していくことは困難になると考えられる。社会保障制度国民会議報告書では「QOLの維持・向上を目標として、住み慣れた地域で人生の最後まで、自分らしい暮らしを続けることができる仕組みとするためには、(中略)医療サービスや介護サービスだけなく、住まいや移動、食事、見守りなど生活全般にわたる支援を併せて考える必要があり、このためには、コンパクトシティ化を図るなど住まいや移動等のハード面の整備や、サービスの有機的な連携といったソフト面の整備を含めた、人口減少社会における新しいまちづくりの問題として、医療・介護のサービス提供体制を考えていくことが不可欠である」と指摘している。だが地方の公共交通機関は不採算路線の縮小・廃止を検討しているところが多く、そうなれば地域公共交通の衰退によって高齢者の健康格差を拡大させる可能性を含んでいる。

鍼灸の可能性

古来より日本人の生活・健康を支えてきた鍼灸は、人間が本来持っている『自然治癒力』を引き出すため、体に優しく副作用の少ない治療法である。鍼灸臨床は統計的に整形外科領域の傷病の患者が多く、痛みや痺れといった症状の緩和を求められる。加えて、生活習慣病から生じる様々な不定愁訴や神経変性疾患などの難病患者も生活の質を向上させようと治療を求めてくる。東洋医学の言葉に「未病治」というものがあり、病気予防、早期治療を得意として発展してきた象徴的な言葉であり、健康寿命を延伸させることが長い年月を経て発展してきた東洋医学の最大の目標といえる。

日本の鍼灸治療の特徴として、脈診や腹診、背候診といった切経と呼ばれる触診によって所見を集めるため、直接皮膚を触れることがまず挙げられる。その際、外傷や褥瘡、浮腫、その他の異変などを察知することが可能な他、触れることによる非言語的コミュニケーションは温もりを与え、気持ち良さ・痛みの緩和など癒やし効果がある。それに高齢者の疾患の特徴として、半数以上は慢性的かつ複数の疾患に罹患しており、多様な愁訴に悩みがあって、服薬量が多いことで副作用が起こりやすく、免疫力が弱いことで治癒しにくいことなどが挙げられる。鍼灸の作用・効果は多種多様で、筋肉の凝りや緊張をほぐすだけでなく、神経系に様々な反応をもたらし脳内の血流量やα波を増加させることや、自律神経系や内分泌系に働くことで循環器系や呼吸器系、消化器系、泌尿生殖系などの機能を調整することなどで身体的・精神的ケアに効果が期待できる。加えて、身体機能低下の改善に対して、関節運動などのトレーニングを行うことで介護予防としての効果も期待できる。これを他の保健・医療・福祉サービスとの密接に連携し提供することができれば、高齢者の生活の質は飛躍的に向上すると考える。

そして、「なぜ、訪問鍼灸か」というと、鍼灸治療を行うための人員は1人で済み、道具は少なく、低コストで、交通不便地域へのアクセスも容易であり、医療格差を解消できる可能性もあるからである。今後、運転免許自主返納によって来院手段が限られてくる人が増えてくる中で、従来通りの施術を持続的に提供し続けるためにも訪問鍼灸サービスのシステム構築が求められると認識している。訪問鍼灸では来院が難しい方のご自宅などの生活空間へ訪問することから周辺の幅広い情報の収集ができ、それらの情報を他の専門家へ連絡調整することも可能である。鍼灸師が積極的に院外に出ることによって活動の幅が広がり、施術としての鍼灸だけでなく、チーム医療の中で果たせる役割は十分にあり、他の職種の負担軽減にも繋がると考える。また、この活動が地域コミュニティの核として機能できれば、社会構造や疾病構造の変化による課題に対して、解決の一助を担えるのではないかと考える。

有明医療圏(玉名郡市、荒尾市)の高齢化率は、2015年時点で全国平均を上回る32.6%となっている。私たちは、身体的な症状に対応するのみでなく、患者さんの生活機能全体を高い水準に押し上げ、患者さんが活動的になり、社会活動などへ参加してもらうことを目指しており、SDGsの目指す方向性と重なる部分が多い。鍼灸には未知の可能性があり、『鍼灸のチカラ』がセカイの幸せに貢献でき、様々な課題の解決しうると確信している。

以上、「高齢者編」でした。

 

当院訪問鍼灸サービスの方針

 

  1. 私たちマスト整骨院・鍼灸院の鍼灸部門では、単に病気やケガに対応するだけでなく、健康な日常生活を送り社会活動等に参加してもらえるよう、あらゆるニーズに応えられ最善の支援が提供できるようなシステムの構築を目指します。
  2. 利用者の意思、人格を尊重し、総合的かつ効果的なサービスが提供できるように努めます。
  3. 訪問鍼灸事業を運営するにあたって、地域との結びつきを重視し、他の保健、医療または福祉サービスとの密接な連携に努めます。
  4. 様々な社会問題を鍼灸のチカラを通して解決に挑み、地域社会の発展、有明医療圏の健康維持・増進に貢献できるように努めます。
  5. 鍼灸の限界を理解し、エビデンス蓄積のため産学官連携などに取り組み、統合医療の実現に貢献できるよう努めます。

投稿日:2020年11月30日 投稿者:西尾

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